オールWE並三ラジオ
今回、表記の様な馬鹿馬鹿しいラジオを作ってみました。
真空管コレクターにとって、Western Electric (WE) の球は、その造りといいプロポーションといい、他のメーカーの球と異なり、非常に興味をそそられるものがあります。また、その音質も独特の力強さがあり、気に入っています。眺めているだけではつまらないので、是非とも活用させてやろうと思いました。
そこで、オールWE球によるラジオを作ろうと思い、どの様な球の構成とするか色々と考えました。我が国の並四なら、27A-26B-12A-12Fというのがポピュラーで、12Aの代わりに、WE101D/FやWE104Dなどを使用するのも面白そうですが、26Bの代用として用いることの出来るWEの直熱3極管が、WE239AやWE264C位しか思いつかず、これらはラジオに使うのは勿体ないし価格もべらぼうに高いので、並四はあきらめました。以前DKE38の修理経験から、当地では0-V-1でも十分に実用になることが分かっていましたので、並三としました。
並三としては、27A-47B-12Fと24B-47B-12Fと57-47B-12Fのどれを手本とするかです。5極管なら、WE310A、WE328A等候補は沢山ありますが、ペントードは使いたくなかったので、これらは止めにしました。検波球を3極管にするか4極管にするか、実際にラジオを組んでみてから決定することにしました。
まず出力管ですが、丁度WE374Aが手元にありましたので、これを使用しました。直熱の5極管で規格も47Bと似ていますが、もっと強力です。東芝が47Bの補修用にWEにOEMで作らせたなら、きっとこんな球が出来上がっていただろうなと思わせる様な造りです。
次に、整流管をどれにするかが問題でした。WEの整流管は種類が限られますし、あっても高価なので困ります。WE274A/BやWE422Aは論外ですし、WE412AもmTなので使いたくありません(しかも高価)。WE345AやWE351Aは珍しいし、仮にあっても高価でしょう。結局、3B24という球にしました。直熱管で最大直流出力電流60mAと12Fに毛の生えた様な規格ですので、まさにピッタリです。外形も、T11タイプでWE374Aと揃うので良しとしました。問題は、フィラメント電力が、5V3Aで15Wも喰うことで、何と5Z3などと同じです。それから、トッププレートですが、これも仕方がありません。
最後に、検波管ですが、これも悩みました。3極管では、WE262A、WE272AやWE244Aも考えましたが、やはりラジオに使うには勿体ないので今回はパスして、またWE262Bは持っていないし、あっても非常に高価でこれもパス。結局WE292AとWE352Aが候補に残りました。4極管では、WE245AとWE259Aを候補に選びました。
回路を、グリッド検波にして、後は、プレートチョーク、抵抗負荷、それと低周波トランス(チョーク接続含む)と色々と試して見ようと思いました。それで、各電圧CT巻き線付きの電源トランスを東栄変成器に特注しました。他のパーツは、WEには最大の敬意を表しつつも、並三の分は弁えるという際どい選択をした積もりです。そして、ラジオだけでは面白くないので、CDも聴ける様にと、アンプにも切り替えられる様に考えました。それで、OPTなどは、一応オーディオ用の範疇から選びつつ、けれども所詮並三ラジオの物という風に、微妙なバランスを考慮しました。当然のことながら、WEのトランス、抵抗、コンデンサーなどは使用出来るはずも有りません。
具体的には、バリコンはアルプスのB-15(350pFmax)、スターの並四コイル、豆コンは無銘の業物、グリッドリークは理研リケノームのL型抵抗、グリコンは村田のチタコン、1:3のインターステージトランスは、10年前に購入した某店のオリジナル品(確か、Zp10kΩ10mAmax)、OPTはタンゴのU-608とし、電源スイッチは、戦前のHermes(ヘルメスと読んで下さい。)の丸頭型、CHはUTCの軍放出品を使いました。音質上の理由から、ケミコンは使いたくなかったので、AUDYN-CAPと指月のフィルムコンを使用し、端子も戦前の米国General Radio製とし、自作のベーク板に取り付けました。ダイヤルは、何せ並三の分際なのでバーニアなど使わず当然バリコン直結として、ダイヤル合わせの微妙な感じを毎回味わえる様にしました。ソケットは、やはり並三である以上、拘って全てウェハータイプとしました。整流管の発熱量と大電流が不安でしたが、長時間使用するものでもないと思い、揃えることにしました。ACプラグは、松下の旧丸形(ポニーキャップ)とし、ACコードも丸打ちコードを使用しました。SP出力もHiとLowと両方設けました。他の拘りとしては、止めビスを、電源トランスを除いて、全て旧JISマイナスネジとして、配線材は、外から見えるところは、WE流に綿被覆線を使用し、端部は解けないように糸巻きをしました。
上手いとは到底言えない工作ですが、アルミの弁当箱に穴あけをして、プライマーの上にアクリル塗料で塗装して、パーツを取り付けて、毎日少しずつ楽しみながら半田付けをしている内に、急に気が変わって早く完成させて音を聴きたくなってしまいました。予定していた種々の実験を急遽取りやめ、検波球を外形の大きさのバランスからWE292A(ST14)をやめてWE352A(ST12)とし、低周波トランス方式と決定しました。結局、WE352A-WE374A-3B24というラインナップとなり、制式名称は、「グリッド検波トランス拡大式オールWE並三ラジオ」と相成りました。見かけでは出力管が一番小さいですが、仕方がありません。見てくれは小型ですが、パワフルですので良しとしましょう。
初め、3B24にB電圧AC200Vを印可したところ、3B24の管内電圧降下が想像以上に大きく、予定したDC電圧に達しませんでした。改めて3B24を眺めれば、フィラメントとプレートとの間隔が結構ありますので、当然のことだったのですが、失敗でした。念のため設けていた240Vタップに変更してやっと予定の電圧となりました。ラジオ使用時には、WE352Aのトップにシールドケースを取り付けます。アルニコの無銘スピーカーを端子につないで、ラジオで音出しをしたら、ハムが聞こえず、並三らしくないとちょっと物足りなく思いましたが、NHK第1、NHK第2、FEN、TBS、文化放送と5局受信出来て、特にTBSと文化放送はうるさい程でした。再生は掛かりすぎる程でしたが、コイルや豆コンに細工をするのも嫌なのでそのままとしました。WE352Aとインターステージトランスとでインピーダンスに若干のミスマッチングはありますが、影響はありません。アンプに切り替え、CDを聴いたところ、少しハム音が聞こえたものの、スピーカーから30cmも離れれば聞こえなくなったのでOKとしていました。
ところが、後日コーラルのFLAT6に替えて聴いたところ、3m離れてもハム音が聞こえたので、あれこれいじくった結果、整流用のAUDYN-CAPに10μF×2を追加して、14.7μF×2にしてやっと限度内に収めることが出来ました。本当は、CHの方を10Hから30H程度にすれば良いのでしょうが、UTCのジャンクを使いたかったので、コンデンサーの方を強化しました。3B24には、ちょっと負担かも知れませんが、恐らく大丈夫でしょう。ついでに、3B24のプレートキャップを、間に合わせに使っていた中国製からNational(松下ではない)製に交換して、やっと完成としました。二兎を追うのは本当にしんどいと実感しました。
3B24の煌々と光り輝くタングステンフィラメントは圧巻で、当然ながらパイロットランプも必要ありません。ムード照明代わりにもなりますが、問題はやはり発熱量が大きいことでした。予め周りに十分なスペースを空けて置いたのですが、短時間の使用でも、3B24のプレートキャップが相当熱くなるのは仕方がないとしても、ベース部までも結構熱くなります。ソケットへの影響が心配ですが、当面様子を見ることにします。CRの定数もベストポイントに細かく調整している訳ではありませんが、一応安物テスター実測で、
ラジオ時:WE352A Ep=54V、Ip=1.6mA / WE374A Ep=142V、Ip=19.6mA、Esg=136V、Isg=0.8mA、Eg=-15.3V / 3B24 ACin 248V DCout 166V
アンプ時:WE352A Ep=134V、Ip=2.2mA、Eg=-5.2V / WE374A Ep=144V、Ip=20.3mA、Esg=138V、Isg=0.8mA、Eg=-15.8V / 3B24 ACin 248V DCout 170V
となり、規格範囲内に収まっていますので、とりあえずOKとしました。(もちろん誤差等ありますのであくまでも参考程度にお考え下さい。)
NFBも一切無い裸のペントードですが、直熱管の故か、半波整流と相まって、ラジオでもアンプでも、WEというだけあって、流石に音が良いと一人で気に入っています。
正面
フラッシュの影響で水色っぽく写っていますが、実際は深緑っぽい色です。電源スイッチは、戦前のHermes(ヘルメス)の丸頭型。OPTはタンゴのU-608。
背面
左端のインターステージトランスは某店のオリジナル品、右端のCHはUTCの軍放出品、3B24のプレートキャップはNational製、自作のベーク板に取り付けたGeneral Radio製端子。
同調検波部
バリコンはアルプスのB-15、スターの並四コイル、グリッドリークは理研リケノームのL型抵抗、グリコンは村田のチタコン250pF。
出力部・整流部
シャーシ上面に光の輪の陰が映し出されます。エンジェルリングと勝手に命名しました。
シャーシ内部
豆コンは無銘の業物、拘りのウェハータイプソケット、AUDYN-CAPと指月のフィルムコン。CRの定数と配線はまだまだ改善の余地ありと思っていますが、そのままにしてあります。
使用球勢揃い
左から、WE352A、WE374A、JAN-CW-3B24
私見による球の見所
WE352A:WE特有のスラッとしたプロポーション、セラミックヒータースリーブ、ベースのイエロープリント、黒くなった銀メッキ足ピンなど。
WE374A:太くどっしりとしたT11バルブ、深緑っぽい(と私には見えます)プレート、ガラスのイエロープリント、スクリーングリッドだけが短い銀メッキ足ピンなど。
3B24:トップからぶら下がっているプレート、熱遮蔽板など。
マーク、ベース、ステムも3者3様違うのも面白いものです。
WE352Aのアップ。独特のトップマイカ。
WE374Aのアップ。トップのおむすびマイカ、WEVT-52を彷彿とさせる様な3本吊りのフィラメント。
JAN-CW-3B24のアップ。スパイラルフィラメントと円筒形のプレート。
熱遮蔽板とステム。WE刻印球だけが持つ独特の風格を感じて頂けるでしょうか。
元箱には、6-25-45受入れと印字されています。当然未だ戦争中で、沖縄では、前々日牛島中将が自決、前日から米軍による掃討戦が開始されています。合掌。
各球共、WE製以外に、各社で製造されていましたので、それらに差し替えて、見た目と共に音の違いを楽しんだり、聴く曲目に合わせて、球の組み合わせを替えるという楽しみもあります。スイッチで検波管のヒーター電圧を10Vと6.3Vに切り替えて、85を差し替えられる様にしました。85は各社で広く製造されていたため、バリエーションが広がります。そしてアダプターを付けて、6BF6など他の球を挿して、音の違いを楽しんだりしています。Rpが低くなって行く程、インターステージトランスとのマッチングが合うのか音に力強さが出て来る様です。終段管もアダプターを付けて他の球を差し替えられますので、面白さ倍増です。整流管もアダプターは必要ですが、フィラメントが、5V3Aもあるので大抵の整流管が使用可能です。
検波球いろいろ
左から、WE292A、WE352A(純正)、WE352A(OEM)、RCA/Cunningham 刻印 85、WE310Aのベースを利用したアダプターに挿した GE 6BF6
他社製出力管
Tung-Sol 374A
6AR6や5881や6550を彷彿とさせる様な、Tung-Solのグレープレート。力強い音には共通のものがあります。トップのおむすびマイカはWEと同様。
他社製整流管
左から、CRP-3B24(Raytheon)、 CRP-3B24W(同)、CUE-3B24WB(United Electronics)、CUE-3B24WBM(同)
Raytheon製の2本。ベースがマイカノール製になり、プレートの形が異なる。
United Electronics製の2本。共にグラファイトプレートで外形は同じ様に見える。右の球(WBMの方)のベースには、ラジオアイソトープの恐ろしいマークが付いている。(何故でしょう。)
当初計画していた、検波球の負荷の違いについての考察は全然出来ませんでした。それから、造りの気に入っている4極管のWE259Aを使ったらどうなるか、27Aに近いWE272Aを使ったらどうなるか、という点についても興味はあったものの何も試せませんでした。球はあるし、電源トランスに余分なヒーター巻き線の用意もありますので、やる気になればいつでも出来ますが、どちらも今後の課題とします。また今後の楽しみとしては、将来運良くWE262Bを入手できた暁には、ソケット交換あるいはアダプターを付けるだけで、即WE352Aに交換OKですので、是非ともメッシュプレートの違いを試して見たいものです。
これ程馬鹿なラジオを作る物好きは、世間広しと言えども私くらいのものでしょう。並三ラジオを1台作るだけでも、結構なお金と手間暇が掛かるものだと実感しましたが、作るまでのあれこれ考える楽しみ、シャーシ穴1つ半田付け1つで実感する製作過程の喜び、出来上がった時の達成感、そして使用時のフィラメントの輝きと聴き惚れる音(音楽)の安らぎは、どれ1つをとってみても何物にも替え難いものとつくづく思い知らされます。
最後になりましたが、これらのパーツを入手するに際して、お世話になりました方々に御礼を申し上げます。
参考文献: ラジオ技術 2006年10月号 p.150〜152
(2007/07/14)