VT-327A VHF送信用直熱3極管

 

 VT-327Aは、第二次世界大戦中の米国海軍のSC-2レーダー(200MHz)のリング・オシレータ用に4本組で使用された様ですが、詳細は不明です。フィラメント電力100W(10.5V10.65A)に加えてプレート損失100Wで、猛烈に熱くなります。そのため、電極引き出し部のガラスにウランガラスを使用して、引き出し金属と熱膨張率を一致させています。そして、同じく熱対策のためと思いますが、ガラス部の厚さが薄く造られています。持った感じが意外に軽くて拍子抜けします。実測で、全長(トップの引き出し部のガラス〜底部のガラス)132mm、ガラス部の直径51mm、ガラス膨出部の直径73mm、重量90gでした。したがって、輸送時など機械的衝撃に弱いので注意が必要です。

 プレートの引き出しが、グリッド引き出し部の上部に横方向に2つ出されているのが、VT-127Aとなります(電気的には同一特性)。

 昭和18年10月号の「無線と實驗」誌には、表紙(口絵写真)と本文11頁にVT-127Aが16本並んだ米軍の電波標定機の修理されたものの写真が陸軍当局から貸下げられたとのことで出ていて、本文中の説明(寺澤春潮氏)によると、「本機は、SCR268型といい、ウエスターン・エレクトリック社の製品である。使用波長は1メートル50、インパルス周波数は4000サイクル、性能は測定可能距離約9キロ・メートル、精度は距離がプラス・マイナス8パーセント以内、角度は同じく0.5度以内と発表されている。・・・送信機は電波標定機の中央上部にある。即ちオシロスコープの直上には各種回路のスイッチ類が纏めてあり、その上部に問題の送信機がある。これは写真に見る通り16個の送信管を使用している。送信管はEitel-McCullough社製の超短波用三極管で、これらの出力はリンク結合にて送信空中線へ取出している。なお送信機室の上部即ち送信管の上方には冷却用の風扇がある。」とのことです。

 補足として、同月号の本文には、能村嘉年氏(国際電気通信株式会社)が「対空電波兵器には遠方からの飛行機の襲来方向を知るのを主目的とする警戒機(ラジオディテクター)と、飛行機の位置を測定して射撃することを主目的とする標定機(ラジオロケ-ター)の2種類があり夫々使用目的に応じて適当なる方式を用いている。」とあります。

 

EIMAC 327A

元箱。

CWL 327A (=EIMAC 327A)

元箱。トップ面に海軍の錨のマークがスタンプされている。側面には、"U.S. NAVY ・・・30 HRS. ACCEPTED 8-43"とある。

プレートから上部に1カ所引き出され、グリッドは高周波と放熱も考慮して横方向に2カ所引き出され、フィラメントは下方に引き出されている。プレート部分の中央部分が膨れていて火星人(?)の様な印象。

放熱フィン付きのモリブデンプレートが美しい。

と書いていましたが、昭和18年8月号の「無線と實驗」誌の1〜4頁には、佐野銑太郎氏(東北帝国大学助教授)の"タンタラムと電子管"という記事が出ており、「本頁及び次頁の写真はタンタラムを使用した眞空管の例で、それぞれEitel-McCullough社の製品(編集局挿入)」と注が付いて、EIMAC 450Tなどと共に、本文2頁にVT-127Aの写真が載っており、本文には、「3.タンタラムの性能 ・・・もしWに近い融点と蒸気圧とを持ち、然もMoのように加工し得る材料があれば、申し分ないわけである。 この要求を充すものがタンタラム(Ta)であって3030℃という高融点を持ち、然も蒸気圧はWに近いので、最大10W/cm2の損失を許すことができる。従って、同一出力に対して、Moによるよりも電極を小型になし得る。・・・こうした利点の外に、更に好都合なことは吸蔵瓦斯の駆出が非常に容易で、眞空中で800℃くらい加熱すれば、短時間で急速に吸蔵瓦斯を排出する。然も瓦斯を排出したTaは、高温度で普通の瓦斯を非常によく吸収する性質がある。即ち、水素はTaの容積の740倍も吸収され、酸素や窒素も化合によって非常によく吸収される。 瓦斯吸収の最適温度は600℃付近であるから、Taで陽極を作り、弱い赤熱状態で使用すれば、ゲッターが要らないわけである。・・・6.産地 斯様にTaは電子管材料として非常に優秀な特性を持って居り、製法も確立しているから、どしどし作って使えばよいわけであるが、実際はそうはいかない。その最大原因はその産出が誠に乏しいことである。一体どこから出るのかというと、・・・やはり最も豊富にあるのは豪州で、西北部Pilbarra地方が第一である。この意味からしても、豪州がものになれば、Taをどしどし使って優秀な電子管を製造し得るわけである。 翻って敵国の産出状態は如何にとみるに、残念ながら、北米South Dakotaやメキシコから出るので、豪州をものにしたとしても、ゴムや錫のようにはいかない。・・・」と書かれている。

なので、

放熱フィン付きのタンタルプレートが美しい。

に訂正します。

 なお、プレート表面にジルコニウムを塗布していると書いてあるHPもありますが、上記のとおり、タンタル自体ガス吸着能が高いので、ジルコニウムは塗布していないと思います。

スパイラルフィラメントにかご形グリッドの基本的な電極構造。グリッド引き出し部のウラングラスも良く見える。

底部のフィラメント引き出し部。ウラングラスのところが、薄く緑色に見える。もちろん微量だが放射線が出ている。

紫外線を照射すると、緑色の蛍光を発して美しく輝く。

 

(2014/10/26)

(2019/05/22)

(2019/06/30)

 

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