295 電力増幅用傍熱3極複合管

 295は、1932年3月にSpeedで開発・発売された、ポジティブグリッドダイナミックカップルパワートライオードの元祖で、ドライバーの傍熱型3極管と直熱型3極出力管とが同封された複合管です。丁度227245(ただし、グリッドピッチは細かい)とが同封されている様な感じです。 "Triple Twin"というキャッチフレーズは、245(1.6W)の3倍、247(2.7W)の2倍の出力(4.5W)が得られるという意味です。KOトロンで国産化された様です(下記参照)が、見たこともありません。いつかはこれでアンプを組んでやりたいものです。姉妹管として小型の293291も製造されましたが所持していません。ダイナミックカップルの系譜は、この後、2B6に引き継がれて行きます。

 昭和7(1932)年5月号の「無線と実験」には、新名三七男氏の”最新の眞空管 スピードタイプ二九五”との詳細な記事(pp.177〜181)があり、「・・・外国では又々新しい而も極めて素晴らしい性能を有する一眞空管が或る製作所の研究室で発明せられた。勿論研究室内での話しでまだ商品として一般世上には出て居ない様であるが、この原稿が発表せられる頃には恐らく既に研究室から飛び出して至る所でその素晴らしい性能を発揮していることゝ思ふさて此眞空管とは一体どんなものか、それに就いて最近ラヂオニュース誌上に報道せられて居た記事を読んで筆者は非常に面白い代物だと思ったので早速それをそのまゝ諸君に御紹介申上け様と云うのである。 さて此の球は電圧4ボルトのグリッドにシグナルを与えれば拡声器に4.5ワットの不歪出力を得ると云うのであるから、ペントードの約3倍半、245シングルの約12倍の出力を持って居ると云う素敵なものである。のみならず可聴周波増幅同様検波用としても使用出来、此の場合にはグリッドに加へられる搬送電圧が10ボルトあれば増幅の時と同様4.5ワットの出力を得ることが出来るのである。それ故に受信器の出力回路に此の球を使用すれば中間結合装置は要らない訳で、従って場所の節約となり、場所の節約はやがて、現在坊間でコンソール装置が鳴らして居る様な音質を供給するに足るだけの整流装置と、二三の眞空管を使用するだけで只今流行中のミゼットレシーバーを作ることが出来る。 此の眞空管はケーブルチューブコーポレーション(米国)と云う會社の研究室で改発製作せられたものでスピードタイプ295と云う名前で知られるやうになると思う。此の球を使用する際回路には特殊な部分品が要らないから遠からず製造家は此の球を製品に使用する様になることと思はれる。最大出力を得るに必要な負荷抵抗は球のプレート抵抗と同じ4000オームであるが、現在使用して居る変圧器は丁度此の位の負荷に適する様設計してあるからこれをそのまま使用することが出来、甚だ便利である。 増幅器の最小歪は大体に於て5パーセント位で、最大出力の時と同じ負荷の場合に起る。此球を適当に設計した回路に使用した場合の周波数特性曲線は30サイクルから5万サイクル迄は殆ど直線となる故にテレビジョンには特に適していると云うことが出来る。 球の構造 此の295なる球は2個の3極管を3つ[引用者注:「1つ」の誤記と思われる。]の硝子球の中に封入した様なものであって、此の種の球は複式管として数年前独逸で製造され、我国にも紹介せられたことは諸君の記憶に存じて居ることと思ふ。然し一般的にはならなかった。・・・さて此の球の新奇な点は那辺にあるかと云ふに、構造が複式になって居ると云ふ点よりも寧ろ、此の球の働く回路にあると云ふことが出来る。便宜上ここには球を構成する2個の3極球を第1部(入力部)第2部(出力部)と呼ぶこととしておかう。此の2部分は静電的結合を出来得る限り避ける為に別々に取付けてある。フィラメントは並列になって居て、AC2.5ボルトの電圧を要する。而して回路と回路とを絶縁する為入力部のフィラメントは傍熱型とし出力部は250同様直熱式となって居る。又此の2部分は『直接結合』の方式で結合せられて居るが従来のものの様に2重のB電池は要らないのである。入力部のカソードは出力部のグリッドに球の内部で連結せられて居る。球の内部で連結されて居る部分はこれだけである。 次に面白いことは、従来使用せられて居た球ではグリッドが正の価を取ることは絶対に禁物であった。所が此の球を使用した回路では出力部のグリッドが正とならなければ4.5ワットのパワーを出さないのである。此の事実は従来の我々の頭から考へれば甚だ奇異に感ずる所で定めし歪だらけの再生音が得られることと思ふのであるが、これが此の球の面白い所で、たとへグリッドが正になったからと云って決して再生音には影響しないのである。それは全く此の回路と球の特殊な設計によるもので此の点諸君の明確な御了解を希望して止まない次第である。(此の理由は後で説明してある)・・・最後に研究室内の実験で得た特性の二三を諸君の前に披露して見やう。 フィラメント電圧 AC2.5ボルト フィラメント電流 4アンペア プレート電圧 第1球 250ボルト 同上 第2球 250ボルト 相互伝導率 第1球 約1,150 同上 第2球 3,700 プレート電流 50ミリアンペア グリッドバイアス 入力 6ボルト プレート抵抗 4,000オーム 負荷抵抗 4,000オーム 最大不歪出力 4.5ワット 最小ハーモニックディストーションは4000オームの時5パーセント・・・最小歪が最大出力に必要な抵抗の時に起ることに御注意。ペントードの如く特殊の変圧器を要しない。245若しくは250用として設計した標準出力変圧器で充分である。但し50ミリアンペアのプレート電流に堪えるものでなければならない。(終り)」とあります。

 そして、「無線と実験」におけるKOトロン(ケーオー眞空管製作所)の広告を見ると、昭和7(1932)年4月号及び5月号に「ラヂオ用眞空管なら−斯界の王者日本のケーオートロン 賜秩父宮家御買上光栄 日本放送協会認定品 新発売 UY247 五極管 UY452 Super tube KX506B 整流管 UY295 近日発売」とあり、UY295がまだ発売されておらず、近日発売であることが告知されています。同じく昭和7(1932)年6月号に「賜秩父宮家御買上の光栄 純国産品のケーオートロン 日本放送協会認定品 新製品 ペントード球発売 UY227 UX112A UX226 KX112B UX201A UY247B UY295 UY452 KX506B KX280B」とあり、UY295がリスト中に明記されており、既に製造販売されていることが判ります。また、同じく昭和7(1932)年7月号に「ペントードセットには超検波球UY227-B 最新球 新発売 UY-452 双子増幅球 UY-247-B 小型ペントード UY-247-C 同上・・・F.V1.5 F.AM.1 UY-295 テレビジョン用受信球 KX-280-B 中間半波整流管 UY227-B 超検波増幅球」とあり、UY295が「テレビジョン用」とされていることが判り、上の5月号の記事(下線部)との関連が窺えます。そして、昭和7(1932)年9月号の「無線と実験」には、KOトロン(ケーオー眞空管製作所)の広告として、「ラヂオ用眞空管 KOトロン 新球続々発売 KOトロン新球使用はアナタ方の誇りであり ラヂオ通たるシンボルである。 国産唯一の優秀球とは・・・・ 1.超検波球 KO-UY227-B 227のソケットに入れてそのまゝ直ぐ使へる。部分品が僅少で能率強大増幅率は227の2倍以上 2.改良小型ペントードKO 247-C 226二本の代りに高級品ペントード球が安価で簡易に使用出来る。 新発売 UY227-B UY247-B UY247-C KX280-B KX506-B UY-452 UY-295」とあり、同p.738には、「KOトロンUY295現はる かねてから研究していたKOトロン製作所では、此程UY295UY227BUY247Cを完成して、市場に出した。UY295の規格は K.O.Tron UY295 Heater 2.5V(A.C) 35[引用者注:「3.5」の誤記と思われる。]Amp Plate volts input Section 180-275 output Section 180-275 Grid Bias input Section 3-5 output Section 50-56 Plate Current(m.a) input Section 5-7 output Section 34-36 Ampli Factor input Section 20.6 output Section 3.5 Mutal Cond(μ.mho) input Section 0.0016 output Section 0.002-0.0021 Internal Rest input Section 12700 output Section 1750-1670 Power out put output Section 2.5-3W Signal input Volts input Section 3-5 Load impedance output Section 2500-3340」とあり、同p.753には「KOトロン295の内容 UY295の内容を簡単に説明すると、1個の眞空管の中に、227245とを同居せしめたもので、245のグリッドは227のカソードである。ヒラメントはパラになって居り、2.5ヴォルト3.5アムペアであるから、ヤクザなパワートランスでは働かないであらう。」ともあります。

 

Speed 295

S21型のボリューム満点の姿に痺れます。

 

 

こちらは別の球。

トップからの眺め。

 

 

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