DKE38 (Deutscher Kleinempfänger 1938)

 

 ナチスドイツが作らせたラジオとして有名なDKE38を修復してみました。我が国風に言えば、「三八式帝国型豆受信機」とでもなりましょうか。政権を獲ったナチスが、外国放送を聴かせずに、自国のプロパガンダだけ聴かせようという発想で設計されたラジオでして、回路やパーツも全て各社共通化して、しかも低コスト化を図ることにより、貧乏人でも買える様になっていました。

 基本的には、トランスレス式として、他のパーツも極力金属を使用しない様に設計されていました。回路は、検波・低周波増幅用の複合管であるVCL11が1本と、半波整流管であるVY2が1本の合計2球式ラジオです。電気的には、0-V-1ということで、並三相当ということになります。回路的には、大きく4つのタイプに分けられる様です。(1)初期型:VCL11のカソード抵抗が半固定タイプ、電源部にチョークコイル有り。(2)中期型:VCL11のカソード抵抗が通常の固定タイプ、電源部にチョークコイル有り。(3)後期型:VCL11のカソード抵抗が通常の固定タイプ、電源部のチョークコイルの代わりに抵抗となる。(4)戦後型:資源節約型のラジオということで、戦後も作られた様ですが、良く解りません。

 それにしても、電源チョークを長い間律儀に使っていたのは国民性を感じます。我が国ならまず真っ先に設計段階から抵抗で代用になったと思われます。そして、ドイツらしく徹底していると感じたのは、全てのパーツにハーケンクロイツのマークが打ってあることでした。

 その外見を含めたデザインがとても気に入っていて、以前から欲しかったラジオでしたが、図らずも3台入手することができまして、一度に修復しました。

 まず、電源部のケミコン4μFの内部を交換しました。外側のケースのみ流用します。今はフィルムコンデンサーの良品が手に入りますので、物色したところ、AUDYN-CAPの3.9μF630Vが丁度ピッタリの大きさでした。同じドイツ製なのも何かの縁と思い採用しました(上から2つ)。常時使用するラジオには、ケミコンを使いました。大きさに隔世の感があります(上から3つ目)。最終的には、ペーパーコンデンサーも大きなものは、ケースを流用して内部だけ交換しました(下2つ)。

コンデンサー交換

 左上から2番目と3番目のオリジナルコンデンサーのケースには、Philipsのマークと一緒にハーケンクロイツのマークが打たれている。

 

 次に、真空管ですが、オリジナルは貴重です(特に、VY2)ので、代用品は必須です。

 VCL11代用としては、色々と検討しましたが、50BM8(UCL82)しか思い浮かびません。ヒータートランスを使用しても良ければ、沢山の候補がありますが、それでは余り意味が無くなるでしょう。ただ、50BM8は、常時使用するには最適ですが、最初のテスト時には勿体ないので、適当なTV用の3極5極複合管を使いました。ただ、ヒーター電流が、VCL11は50mA、50BM8は100mAと2倍の違いがあることと、電気的出力は50BM8の方が大分大型であることが違いますが、50BM8使用時には、下記の通り、専らAC100INでの使用になりますので、B電流もそれ程多くならず、問題ないと思います。

 VY2代用としては、抵抗とシリコンダイオードで製作しました。抵抗は、ヒーター代わりで500Ω20Wのセメント抵抗としました。これで、VCL11と組み合わせて使用した場合には、500Ω×50mA=25Vの電圧降下となって、VCL11の90Vと併せてAC115VINで使えますし、VCL11代用の50BM8と組み合わせて使用した場合には、500Ω×100mA=50Vの電圧降下となって、丁度50BM8の50Vと併せてAC100VINで使えるという、両方の場合を兼用できるメリットがあります。少しでもDC出力電圧を確保したかったので、DC出力には敢えて抵抗を入れませんでしたが、後で述べるとおり、結果的には杞憂でしたので、入れた方が良いでしょう。

使用真空管と代用球

 左から、VCL11代用のG8Aプラグに装着したTV球、同じくVCL11代用のG8Aプラグに装着した50BM8ValvoVCL11ゴールドスプレー、TelefunkenVCL11シルバースプレー、TelefunkenVCL11カーボンスート、TelefunkenVEL11カーボンスート、VY2代用のS5プラグに装着した抵抗&シリコンダイオード、ValvoVY2TelefunkenVY2

 上の金球と銀球の裏側には、ハーケンクロイツのマークが打ってある。黒球には無いので、戦後製かと思っている。

 

Deutsche Philips DKE38 

 

正面からの眺め。このシンプルなデザインが気に入っています。電源スイッチは裏側、中央のダイヤルが同調、右のつまみが再生バリコン、左のバリコンがバリオカップラーとなります。

ダイヤル部分のアップ。ダイヤルは0-100目盛りで赤と白でカムが付いていてバンドを切り替える様になっています。その上部には、怖ろしいハーケンクロイツのマークが付いている。

裏蓋を取った内部。キャビネットはベークライトの成型品、右上奥に例のマーク。スピーカーフレームは、抄造の繊維板、要するに厚紙。我が国の局型ラジオの紙フレームスピーカーにも影響を与えたのではと推察しています。マグネチックスピーカーの磁石が独特な形をしています。

シャーシの左端にスナップ型の電源スイッチがあります。その右側、アンテナ・アース端子の左側に半固定抵抗が見えます。従って、初期型となります。シャーシもベークライト板。各社で製造したパーツを持ち寄ってラジオを組み立てているので、どこ製のラジオかという時に、シャーシで決定しました。VY2の左奥に電源部のケミコンがあります。内部にフィルムコンを入れて、外側のケースだけ再利用しましたが、両端部のホットメルトシーラーに白色を使用しました。そのまま写真を撮ってしまいましたが、似合いませんので、後で着色してやろうと思います。VY2の右側に大型の捲き線抵抗が立てられています。地域によって供給されている電灯線電圧が異なる様で、110〜240V50Hz仕様となっていて、115V(110〜130V)の時は、一番上の端子に接続して、150Vの時は真ん中の端子に接続して、220V(220〜240V)の時は一番下の端子に接続して、一番上の端子以外に接続した場合には、この抵抗が真空管のヒーターと直列に接続されることによって、余分な電圧を降下させる働きをさせています。プレート電圧は電源電圧に応じて変化しますが、200Vと115Vと比較しても余り大きな変化が無かったので、この端子は115Vで固定しました。AC電圧を下げていっても、100Vでも115Vと全然同様に聴こえました。どこまで下げられるのか試してみたら、何とAC30VINでも鳴っていたのにはビックリしました。ヒーター電圧の低下と併せて、出力DC電圧低下の二重苦の中で天晴れと思います。上の50BM8&ダイオードの組み合わせもAC30VIN位が下限でしたので、戦前のドイツの技術は流石だなと感服しました。それから、修復後、最初の音出しの時に、電源スイッチを入れても全くの無音状態が続いてから、1分程してからやっと音が出てきて、一安心しました。ラジオなのにハムすら出ないというのに感心しました。電源チョークのお陰か、パーツが優秀なのか、技術が優秀なのか、はたまたスピーカーがちゃちなため低域が出ないことによるのか、何れにしても不明ですが、貧乏人向けにしては良く出来たラジオと思います。

左端上側の電源スイッチは、こんなちゃちな物ですが、両切りタイプを使っているのは流石です。左下の軸は、再生バリコン用、右下の軸はバリオカップラー用です。抵抗はオリジナルをそのまま使用しています。コンデンサーは、最初電源部のケミコン2個のみ交換しただけで、アンテナ線として2m位のビニール線を繋いだだけで、蚊の鳴く様な小さな放送が聴こえました。0-V-1なのでこんなものかとも思いましたが、試しにカップリングコンデンサーを交換したら格段に感度が上昇したので、思い切って全て交換しました。大きなコンデンサーの場合は新しいコンデンサーを旧ケース内に収めて、小さなコンデンサーの場合には、新しいコンデンサーを旧コンデンサーや他のパーツの陰になる様にして、一見して交換しているのとが判らない様にした積もりです。配線材は、被覆にも異常が無くそのまま使用可能でした。パーツにはウザイほどにハーケンクロイツマークが付けられています。つまみ(ノブ)には見当たらないと思ったら、軸孔の底部に浮き出しがありました。流石にドイツと感心しました。

 

Kapsch & Söhne,Wien DKE38 

 

 オーストリア、ウィーン製のラジオ。スピーカーネットはオリジナルかどうか不明ですが、多分オリジナルと思います。ダイヤル上部のハーケンクロイツのエンブレムは、どうも一時(終戦時?)平らに削って、オリジナルの浮き出しマークを消してあったのを、その後(販売時?)、ピンバッジ風の物を取り付けた感じです。

こちらのスピーカーの磁石は、通常の馬蹄形です。

電源スイッチの右側に半固定抵抗が有りません。VY2とヒーター電圧降下用抵抗の間の奥にチョークコイルが見えます。従って、中期型となります。

VCL11の奥に検波コイル。その左に同調バリコン。バリコンも金属を使わず、ベークライト製の安物。誘電体は分解していないので不明だが、多分ベークライト(フェノール樹脂)含浸紙を硬化した物ではと思われる。再生バリコンも容量は異なるものの同じタイプ。オリジナルを尊重してそのまま使用する。

 

Philips DKE38 

 

ドイツ占領下のオランダ製ということになるのでしょうか。

こちらは、専ら代用球を使って、50BM8としてオランダAmperexBugle Boyを使ってやって、ラジオと真空管もお互いにマッチして喜んでいると思います。NHKのラジオ深夜便などを聴くにはもってこいで、枕元に置いて常時愛用しています。こんなラジオでも、キャビネットがビビる程鳴っています。ボディエフェクトが多少有るのはやむを得ないと思います。

再生バリコンには、容量180cm(≒200pF)と刻印されています。

 

とりあえずのアップといたします。追加分も後にアップします。

 

(2009/09/27)

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